太陽工業コラム

今までにない膜材料に挑む、膜のリーディングカンパニーをけん引する研究者

塩澤 優樹(しおざわ ゆうき)
技術開発部 技術研究所 2010年入社

2024.03.13

膜構造の技術と素材の研究開発を担う「技術研究所」は、
膜構造建築物を手掛ける企業において、世界で太陽工業だけが保有する施設です。
唯一無二の研究所で、塩澤は素材や製品の評価・分析、新たな評価手法の開発、膜材料の研究開発に挑んでいます。
研究の前線にいる塩澤から開発環境やこれまでの経験、グループ内のメンバーへの思いなどを聞きました。

約30年続く開発のバトンを受け継ぎ、次世代へとつなぐ

当社の膜材料は、東京ドームから仮設建築物まであらゆる施設に使われています。既存の膜材料を使用する場合もありますが、環境やニーズに応じて新たに膜材料を開発するケースは少なくありません。
膜の表面汚れを防止するために、開発された光触媒膜。その研究が始まったのは約30年前です。光があたると触媒作用を発揮する光触媒を利用し、膜表面に汚れが付着しにくく汚れても雨で流れ落ちる、セルフクリーニング機能が今では多くの膜表面にコーティング剤として使用されています。先輩から後輩へと受け継がれ、進化してきた開発の歴史、そこに、私が加わったのは7年前です。

当然ではありますが開発には、社会ニーズがあるべきだと考えております。光触媒は超親水性と汚れの分解という2つの性質を持っており、膜材料にコーティングすると汚れがつきにくいという機能を発揮しますが、高温多湿環境においては、その効果を発揮しにくくなります。特に東南アジア地域ではお客様の要望に応えることが難しい状況でした。そこで、この特性を向上させる膜材料の研究開発をスタートしました。一度は海外のクライアントに提供できましたが、やはり一筋縄ではいきません。試験と改良を重ねて、7年目の今、ようやく完成へと近づいています。

プロフェッショナル集団だからこそ難易度の高い開発に挑戦できる

開発で何より難しいのは、想定通りの結果が得られないことです。膜材料は単一素材でなく、さまざまな材料から構成されています。そのため組み合わせによっては性能低下を引き起こしたり、改善しても想定外のエラーにつながったりするケースもあります。
材料に不具合があれば海外であっても出向いて、状況確認を行います。今までに訪れたのは台湾、タイ、マレーシア、フランス。現地の環境を確認したり、担当者の話をヒアリングしたり。当社には現地の環境を再現して評価ができる設備が整っているので、戻り次第、現場の状況を再現して改善していきます。

心強いのは、研究所にプロフェッショナルが揃っていることです。大規模な物件を数多く設計した先輩や、建築の法律に詳しい先輩、課題と対策の見極めに長けた先輩などさまざまな方がいます。だからこそ、これまでに材料メーカーではないのに光触媒機能をコーティングした膜材料を開発できたり、製造能力がないのに先端材料を膜材料と複合したりといった幅広い展開が可能なのです。こうした実績は太陽工業の誇れる部分だと自負しています。

入社6年目で大きな挫折を経験—そこから得た学びとは

私は開発において「納得感」を重視しています。特に重視するようになったのは、入社1年目の終盤から携わった「抗菌・抗ウイルス機能を有した新規膜材料の開発」がきっかけです。今では需要のある機能ですが、当時はSARSや豚インフルエンザなどの事例しかない時代。売れる商品になるかどうかは未知数でしたが、学生時代の研究テーマと関連があったので興味があり、部門の後押しもあって乗り出しました。

開発にかけた年数は約6年かかり、ついに新規膜材料が完成した時は、達成感でいっぱいでした。何しろ入社して初めての大仕事です。「医療機関から受注があるだろう」と期待に満ちていましたが、依頼がくることはありませんでした。社会から必要とされていない商品、つまり開発は失敗に終わってしまいました。この時ほど、責任の重さを感じたことはありませんでした。取り返しのつかない6年間にひどく打ちひしがれていた時、声をかけてくれたのが当時の本部長でした。

「ありがとう。お疲れさん。」

何気ないひと言ですが、この言葉にどれほど救われたことか。さまざまな感情が往来したこの一件を経て、ニーズのあるものを開発する重要性が心に刻まれました。

私は失敗から大きな学びを得ました。当社には若手でも挑戦できる環境があり、早くから経験を蓄積できるのが強みです。面白そうなものやアイデアがあれば「やってみよう!」と後押ししてくれる、研究者にとって恵まれた環境だと感謝しています。

多様なジャンルの先端技術から発想を広げ、膜構造の未来を開拓したい

膜材料の開発は難しいですが、逆に言えば、組み合わせ次第で多様な機能を与えられるのが魅力です。混ぜたり塗ったりできる自由度の高い材料だからこそ可能性は幅広く、そこに面白さを感じています。そして、膜構造にはさまざまな制約があるため、未だに知らないことが盛りだくさん。先輩方のお力添えのもと、試行錯誤を重ねている段階です。

昨年グループリーダーを拝命してから、部門全体の流れを踏まえて物事を考えられるようになりました。これまでは自分の研究に没頭する毎日でしたが、かつて本部長がしてくださったように、後輩の挑戦を後押ししたり、失敗した時に声をかけたり、皆の成長をサポートしていきたいと考えています。
同時に、研究開発を先導していく立場でもあるため、幅広い知識を吸収するのが今の目標です。グリーンイノベーションや航空宇宙など多様なジャンルの先端技術にアンテナを張り、今後の研究開発がどのような方向に進むのか、広い視野で捉えていきたいです。

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