太陽工業コラム
2011年の東日本大震災は私たちに多くのことを考えさせました。特に原子力災害対応への意識は全国で飛躍的に高まっています。
原子力発電所などでは災害発生時に備え、除染用の拠点としてテントを手配するケースが増えてきています。また、国防の観点でも各種兵器やテロによるNBCR※災害の対策として、関係省庁などで除染用テントの需要が増加傾向にあります。
本記事で、除染用テントにはどのような機能が求められ、どのタイプが適しているかを紹介していきます。
※核物質(Nuclear)、生物剤(Biological)、化学剤(Chemical)、放射性物質(Radiological)によって引き起こされる災害(戦争、事故、テロを含む)の総称をNBCR災害と呼びます。
除染用のテントに求められる機能
放射線災害などの緊急時に使用される除染用テントは、日頃想定されないあらゆる状況に対応できるものでなければなりません。現場での実運用を考慮した場合、除染用のテントには下記のような機能が求められます。
使用しない平時はスペースをとらずに収納しておける
除染のための非常拠点が必要となるような事態はそう頻繁には生じません。保管されている状態がほとんどの除染用テントは、非常時の使いやすさと同じ位、平時の収納性を考える必要があります。
場所を取らないものであれば、それだけ数多く備えておけるという利点があります。小さく軽量なものに越したことはありません。
簡単に持ち運びができる
除染用テントは、保管場所と設置場所が遠く離れていることが容易に想定されます。持ち運びの利便性を考慮していないものでは、緊急時にスムーズな対応ができません。
従来の蛇腹式パイプテントでは、持ち運ぶだけで人手も時間も必要になってくるので、緊急時に最適とはいえません。
蛇腹式パイプテントは持ち運びに手間がかかる
誰にでも簡単に扱うことができる
除染が必要になるような緊急時には、どれだけの人員が動けるか予想できません。除染用テントの設置など、専門性を必要としない作業においては、人を選ばず誰でも対応できる体制を整えておく必要があります。訓練を積んでいないと設営が難しいものは好ましくありません。
少人数で設置できる
本来の目的である除染活動にリソースを集中させるためにも、テントはできるだけ少人数で設営できる必要があります。2名程度で持ち運び~設置まで完了するテントが求められます。
短時間で設置できる
原子力災害が発生時した際は一刻を争います。テントも短時間で組み立てられるものでなくてはなりません。テント一式につき、5分程度で設営が完了できることを目安にしましょう。
シャワー室などの設備を付けられる
除染現場では、シャワーや他の設備が必要になります。併せて着替えのスペースなども必要ですし、季節を問わず利用するためには空調などの機能も付けられなければなりません。そうした設備を保有できるように拡張性や専門性が除染用テントには求められます。
エアーテント内部に搭載する除染用シャワー
安全性が高い
除染目的で設置するテントのため、ただ場所を確保するだけではなく安全性にも配慮した機能を備えるべきです。破損や、火災など二次災害を防ぐためにも、できるだけ丈夫で耐火性の高い素材を用いたテントが有効です。
目立つ・遠くからでも役割が分かる
非常事態の現場は混乱が予想される他、複数の臨時施設やテントが並び建つことが考えられます。誰もが目的とする設備に迷わず辿り着けるようにする必要があります。色や文字などで目立つようにしてテントの役割がすぐに分かるようにしておくべきです。
簡単に撤収できる
除染用テントは臨時で設置します。撤収時もなるべく速やかに遂行できるものが望ましいでしょう。
除染用のテントには「エアーテント」が最適
ここまで、除染用テントに求められる機能を整理してきましたが、従来のパイプテントではこれらの機能を満たすのに十分ではありません。最適解といえる「エアーテント」についてご紹介します。
エアーテントとは?
エアーテントとは、従来のパイプなどの骨組みではなく空気で膨らませて形成する、機能と利便性を高めたタイプのテントです。緊急・災害時に素早く簡単に設営でき、機能も充実しているため、除染用テントに最適です。
太陽工業株式会社の災害・緊急用エアテント「マク・クイックシェルター」シリーズを例に、仕組みや機能をご紹介していきます。
コンパクトに収納できる
エアーテントは骨組みがなく全て布地のため非常に軽量で、コンパクトに収納できます。また、エアーテントであれば場所を占有しません。畳んだテントの上にスペースを確保でき、他の備品も多く収納できるようになるからです。軽量のため取り出しに困ることもありません。
軽量で持ち運びも簡単
除染用テントはどこで使用するか予測が付きません。迅速に現場へ駆け付けられるようにしておく必要があります。持ち運びのしやすさも重要になります。
エアーテントであれば、わずか2人で運ぶことができ、乗用車にも積載できるサイズです。運搬性に優れます。
さらに「マク・クイックシェルター」は他社のエアーテントと比べて畳みやすく、空気を入れてテント全体を支える”気柱部分”が少ないため、重量も大幅に軽減されています。生地もゴムではなく繊維のため、他のエアーテント製品よりも一層軽量に仕上がっています。
広げて空気を入れるだけで設置完了
エアーテントは組み立てと設置がとても簡単です。従来のパイプテントでは骨組みや布地の取り付けが複雑だったり、フレーム式のテントは重さもあったりするため設置が非常に大変です。一方、エアーテントであれば、空気を入れるだけで組み立てられます。初心者でもすぐに設営することができます。
除染対象は人だけではありません。バス車両など大型のものも含まれます。バス車両の除染に対応するため、従来は足場のような櫓を組んで除染装置を設営する必要があり、大量の人と時間が必要でした(下の写真、左)。
エアーテントであれば、バスを収納するような大型タイプであっても空気を入れ始めて約8分ほどで完了します。檜を組む設営コストが大きく軽減され、作業効率化が図れます(下の写真、右)。
従来の櫓タイプ
エアーテント採用後
大人2人で設置できる
持ち運びと同じ様に、エアーテントは設営も大人2人で十分に対応できます。空気で膨らむのを待つだけなので、両端を支える人員だけで設営可能です。(パイプテントでは一般的に4人必要といわれます)。
空気で膨らむのを待つだけなので、両端を支える2名だけで設営可
最短約3分で設置可能
組み立てに時間もかからないのがエアーテントの特徴です。作業時間の目安は下記の通りですが、最短約3分で完了する場合もあります。
- 1.生地の展開(1~2分)
- 2.ロッドの取り付け(1~2分)
- 3.空気の充填(1~3分)
- 手動でも可能
コインシャワーやエアコンなどの豊富な拡張性
「マク・クイックシェルター」はシャワーやエアコンなどの設備も用途に合わせて設置できる拡張性が特徴です。シャワーは水道から直接水を引いてくるタイプのため、タンク式よりも高い利便性が発揮されます。
エアコンに関しては、室内機と室外機が一体型のユニットタイプを採用しており、キャスターが付いているので移動、設置も容易です。
電力共有も発電機タイプと蓄電池タイプがあり、発電機タイプは一定の音が発生しますので、音を発生させたくない時間帯や場所では、より静かな蓄電池タイプで運用されます。また、冷暖房兼用のため、季節を選ばず使用できます。
防炎素材使用で火災に強く、強風にも耐えられる
テント素材には防炎素材を使用しており火災に強い設計です。
また、蒲鉾型のテント形状は安定性に優れ、実地試験では最大瞬間風速20m/秒でも異常が発生しませんでした。強風時にも安心して使用できます。一般的に、正方形面など角ばった構造では風に弱く、丸みのあるエアーテントのほうが安定します。
二重チューブ構造により現場で修理ができる
マク・クイックシェルターは気柱をそれぞれ独立させ、一箇所の穴でエアーテントが完全倒壊する課題を克服しています。構成としては、独立した柱である「エアビーム(二重チューブ式)」と、それに直交する横つなぎ材「連結式FRPロッド」をセットにしています。
一般的なエアーテントでは、気柱部分が全て繋がっているため、一箇所穴が開くと全体が崩れてしまいますが、マク・クイックシェルターはその点、安心です。
各チューブは外側のアウターチューブと内側のインナーチューブの二重構造から成っており、機密性と耐久性を両立させています。インナーチューブは柔らかい素材で高い機密性を保ち、アウターチューブは損傷を内側に達するのを防いでいます。
万が一インナーチューブまで破損が到達した場合でも、現場で交換作業を行えるようになっているため、テント全体を交換する必要はありません。
豊富なオプションで「何のテントなのか」がすぐ分かる
マク・クイックシェルターはテントのカラーリング指定が可能です。団体名などの任意の文字を妻面、側面に入れることも出来ます。マジックテープ付きのシートであれば「救護所」「災害対策本部」などの現場によって用途を変えることができます。
これらのエアーテントを識別する準備は、混乱する現場において、テントの機能を明確に発信できるようになります。
約5分で撤収
設営時同様に、撤収も簡単かつ素早く行えます。排気もボタンを押すだけで勝手に空気が抜けていく仕様のため、人の手で圧力をかけずに待っているだけできわめて容易です。浮き輪のように、力を入れて空気を押し出す必要がありません。概ね5分ほどで、撤収は完了します。
除染用エアーテントの導入事例
実際にエアーテントを導入している現場も多くあります。導入事例を紹介していきましょう。
鳥取県原子力防災
原子力事故が起きた時に被災地から避難する通過拠点において除染を行います。除染用テントを配置して大型車両や人を除染する施設とします。
除染に必要な機材はコンテナに備蓄されており、除染用大型エアテントの他に照明、除染装置などがセットされています。
静岡県原子力防災訓練(掛川市、藤枝市、菊川市、島田市)
原子力災害時に各自治体が備蓄しているエアテントを持ち寄ります。エアテントによってスクリーニングや除染の為のスペースをつくります。
除染用に特化したエアーテント例
マク・クイックシェルターには除染用に特化したタイプもあります。
MQ-DTS-1
シリーズの中で最もコンパクトで軽量なタイプです。車載時の収納スペースも小さく機動性を発揮します。
MQ-DTS-2
歩行困難者をストレッチャーやコンベアを利用して除染します。通常よりも大きな機材を除染時に搬入しますのでスペースを確保しています。
MQ-DTS-3
ノズル10個とハンドシャワー4個を装備し、除染を迅速かつ確実にします。
MQ-DTS-5
左右2レーンに脱衣・着衣室を配置しています。男女別の除染や、一度に多くの被災者の除染が可能になります。
エアーテントの設営~撤収を動画で観てみる
実際に、エアーテントの設営から撤収の手順を説明している動画がありますのでご紹介します。
(出典:太陽工業株式会社 災害・緊急用エアテント「マク・クイックシェルター」)
まとめ
ここまでご紹介してきたように、マク・クイックシェルターには圧倒的な機能性・利便性があります。
除染用テントを検討されている場合は、ぜひマク・クイックシェルターをチェックしてみてください。