太陽工業コラム

道路の保守点検に膜というイノベーション

高度経済成長期以降に集中した道路資産の老朽化が進むなか、保守点検の徹底による安全性の確保が重要となっています。非破壊技術など新たな技術を使った保守点検作業が検討されているなか、太陽工業が着目したのが点検作業環境の改善です。ドームやアリーナ、商業施設等で多くの実績を持つ膜構造技術を点検足場へと応用。膜の特徴を最大限に活かし、安心・安全で、確かな点検を効率的に行なえる作業環境を実現します。

老朽化が進む道路資産 本格的メンテナンスの時代へ

道路の維持、保守点検のために太陽工業が提案するのが膜構造技術の活用です。

膜構造は土木工事の世界では馴染みが薄いかもしれませんが、軽量で薄く、さまざまなデザインに対応でき、耐久性にも優れる特徴を持つ建設技術です。東京ドーム、さいたまスタジアム2002などスタジアムやアリーナ、体育館といった大空間屋根、さらに鉄道駅、商業施設、病院、学校など幅広い分野で用いられています。東京ドームの竣工は1988年ですが、屋根に使用されている膜材は一度も交換することなく、現在も十分な機能を保っていることからも、その耐久性をご理解いただけるでしょう。

 

太陽工業はこの膜構造技術を使って橋梁を覆い、構造体を保護するとともに景観を改善する『橋梁ラッピング』を発表。荷重性能等を強化して常設の点検設備として利用できる『膜式点検足場』を開発しました。これらはいずれも2013年に<橋梁外装膜工法>として「首都高・新技術」に、2019年には<膜式点検足場>として国交省の「NETIS(新技術情報提供システム)」に登録済みの技術です。

なぜ今、膜構造技術が道路の保守点検に必要なのか。それはまさにこの分野が重要であり、さまざまな技術革新を求めているからに他なりません。

「高度経済成長期以降に集中定期に整備した橋梁やトンネルが、今後急速に高齢化し、10年後には建設後50年を経過する橋梁が4割以上になる」 国土交通省の社会資本整備審議会道路分科会は、『道路の老朽化対策の本格実施に関する提言』(2014年)で、道路インフラを取り巻く現状認識をこう示し、「今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ。近い将来、橋梁の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう」と警鐘を鳴らしました。

この提言を受け、同省ではトンネルや2m以上の道路橋などに5年に1回の点検を促す省令・告示を施行(2014年7月)。道路管理者に定期的な近接目視による点検を義務化しました。また2017年7月には『橋、高架の道路等の技術基準(道路橋示方書)』を改定し、重要な社会資本の一つである道路、橋梁の維持管理体制の強化をはかっています。

道路橋示方書の主な改定ポイント

1) 多様な構造や新材料に対応する設計手法の導入

2) 長寿命化を合理的に実現するための規定の充実
・設計供用期間100年を標準とした点検方法や手法、維持管理の方法を設計段階で考慮

3) その他
・熊本地震の実例を踏まえた対応など

 

軽く、柔らかく、耐久性に優れ、そして安全。ドームを始め多くの建設分野に革新をもたらしてきたように、今、大切な道路資産を守り、未来へと継ぐために膜だからできる、膜構造にしかできないことが、そこにあります。

安心、安全、快適 点検作業の効率が大幅に向上

膜式点検足場の基本構造は図のように膜で橋の張り出し部、主桁間を膜パネルによって包み込み、内部には入退出用の専用ハッチ、安全帯用のワイヤーを備えた点検足場として利用します。専用部材によって定着された膜パネルは人が点検作業をするのに十分な強度を備えており、一般的な設計では耐荷重約350kg(おとな5人程度)で、要求に応じて荷重性能をさらに強くすることも可能です。

圧倒的な軽量性で、災害にも強い

膜構造は高い強度を保ちながら、きわめて軽量という特徴があります。膜自体の重さは1kg/m2。金属製の橋梁パネルが80〜100kg/m2なのに対し、膜式点検足場はフレーム部材を含めても20kg/m2ほどしかありません。

軽量で柔軟性のある膜構造は下部構造体への負荷が少なく、躯体の変形や振動に対応する変形追従性にも優れているため、地震等の大きな揺れなどでも破損や部材落下のリスクは、他素材に比べ大きく軽減されます。また道路構造体から部材が剥離した場合なども膜材がクッションとなって受け止め、落下事故等の二次災害を防ぎます。

照明不要の明るい空間

安全性をきちんと担保した上で、点検足場に膜を利用する大きなメリットがその明るさです。金属パネルで覆った足場の場合、作業空間は暗所となるため、点検のために照明機材を搬入する必要があります。一方、膜パネルは閉鎖空間でありながら可視光透過率約13%という透光性能によって、日中は自然光によって内部を常に明るく保ちます。

当社測定値では張り出し部内部で約3000lx、主桁間内部でも約200lxと、作業場照度を十分に確保できるため、通常の近接目視点検ならば照明機材は不要となります。

 

膜を透過した拡散光はコントラストが弱く、極端な日陰をつくらないため、手元確認作業の視認性など点検作業の効率化にも貢献します。くわえて膜式点検足場に使用する膜材は日射反射率約80%、紫外線は約99%カットするため、作業に十分な明るさを保ちながら、内部の極端な温度上昇を抑制します。

点検による周辺影響を抑制 繁華街の景観も大きく改善

従来型の点検では目視確認を行うためクレーン等の重機によって作業員が上昇し、道路に沿って移動させる必要がありますが、都市部ではこうした点検作業にともなう渋滞の発生、歩行者通路への影響などが課題となっています。場所によっては重機の搬入等のために周辺道路の封鎖が必要な場所もあり、作業以前に事前調整が大変なケースもあります。

これに対して膜式点検足場は一箇所の出入り口から点検作業員が足場に入り、点検箇所に応じて足場内を移動することができるのにくわえ、照明機材も不要なことから、点検に伴う設備を最小限に抑えることができます。搬入から撤収までの作業効率の向上はもちろん、一般道路、駅や周辺施設への影響も少ないため、点検にともなう各所との事前調整もよりスムーズになります。

またむき出しの鉄骨やコンクリートを膜で覆う膜式点検足場は、点検以外の日常時には高架下をすっきり明るくする景観改善効果を発揮します。特に駅前や繁華街では歩行者の利便性を向上させ、街の賑わいを生むほか、夜間の防犯効果も高め安心・安全な街づくりに貢献します。

塩化物の付着を大幅カット 沿岸道路の錆対策にも有効

膜で道路構造体をカバーすることで、錆や腐食、劣化の要因となる成分から構造体を守る保護機能を果たすことも大きな特徴の一つです。

膜材はその性能上錆びることがないため特別な塗装等は一切不要で膜材でカバーすることで構造体に影響を与える紫外線をカットするほか、腐食の大きな原因となる塩化物の付着を大幅に削減します。特に塩化物の付着による錆対策に悩む沿岸部を走る道路維持には有効な対策となります。

 

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まとめ

いかに現状の資産を有効に活用し、未来へと引き継いでいけるか。そのためには既存技術のみに依存しないイノベーションが必要となってきます。『道路橋示方書の改定』によって多様な構造や新材料の導入を可能としたのも、より安心で安全な道路維持の解を求めるための新技術への期待を示すものと言えるでしょう。

太陽工業は創業以来、膜技術を追求し、その利用の幅を大きく拡げ、建築に新たな可能性を拓く素材としての地位を確立してきました。ご紹介した『橋梁ラッピング』『膜式点検足場』は、そんな私たちが培ってきた膜技術を、土木の世界へと拡げ、拓いていく製品です。道路、橋、トンネル‥‥。膜というイノベーションを通じて土木建築に新しい価値を提供していく。私たちの挑戦は続きます。