太陽工業コラム
軽量性、耐震性、デザインの柔軟性といった特徴を活かしTMトラスは私たちの生活のさまざまなシーンで用いられています。Part3ではコンピュータによって設計・管理された単一材で構成されるTMトラスの施工性能を活かした仮設建造物の移設、最先端研究での利用事例をご紹介します。
<青海アーバンスポーツパーク>東京五輪のレガシーを後世に遺す
2021年に延期となった東京五輪では陸上、柔道といった競技にくわえサーフィン、自転車BMXといった新競技が採用。東京湾岸地域で行われる3×3バスケットボール、スポーツクライミングもそんなスポーツの裾野を広げることが期待される新競技です。
競技会場となる青海アーバンスポーツパークは、選手村から近い青海地区に整備された仮設会場。観客席は屋外空間で正面にはクライミング用の壁が大きくせり出したように設置され、壁と同時に競技スペースの屋根機能を果たしています。この一見、不思議な形状を実現させているのがTMトラスです。建物横側から見ると三角形のトラス構造が壁の荷重をしっかりと支え、安定させていることが分かります。
東京五輪は施設をレガシーとして後世に残すことが一つのコンセプト。この建物も仮設として整備されたものですが、大会終了後には解体され別の場所への移設が計画されています。TMトラスが採用されたのは、壁のせり出し構造を実現する上で最適な工法である以外に、分解や移設への対応力の高さが評価されたことも理由のひとつです。
TMトラスは単一部材で構成されるシステムフレームで施工が容易なことから、これまで博覧会、展示会のパビリオンといった仮設建築物にも数多く採用されてきました。短期間で施工および解体ができ、部材ごとに細かく分解できることから移送コストが抑えられ、使用した部材を壊すことなく移設・再利用することが可能です。この利点はスポーツ施設に限らず、たとえば自治体イベントで利用した休憩施設を公園等に移設するなど、施設の有効活用にも活かすことができます。
<京都大学3.8m望遠鏡 せいめい>軽量化によって天文学研究に貢献
太陽工業がTMトラスを軸に開発に関わった、やや特殊な例のひとつに天体観測分野があります。大型の光学赤外線望遠鏡を支える架台はわずかなズレが観測精度に影響するため高い安定性が求められる一方、安定性を求めるあまり架台構造自体が大きく重すぎると、照準を素早く目標天体に向けることが難しくなります。安定性と追尾性という二律背反した条件をどうクリアしていくか、その解決策として注目されたのが軽量で安定した構造を持つTMトラスでした。
京都大学岡山天文台にある光学赤外線望遠鏡「せいめい」は、主鏡直径3.8mになる東アジア最大級の国産望遠鏡で、太陽系外惑星については30光年先の観測が可能。突発的な天文現象が起きた場合でも指向時間1分程度で焦点を合わせることができます。この追尾性能を支えているのがTMトラスの安定・軽量化技術です。「せいめい」では遺伝的アルゴリズムを用いて設計構造を最適化。同クラス望遠鏡の3分の1の重さという大幅な軽量化を成功させています。
「せいめい」を語る上で忘れてならないのは、京都大学の研究チームを中心に多くのメーカーが集った産学連携による純国産望遠鏡であることです。日本の科学界に新しい可能性を拓いたとも言われる「せいめい」の開発に関われたことは、私たち太陽工業の誇りでもあります。
まとめ
TMトラスは太陽工業が長年にわたって培ってきた、空間構造物分野における技術、ノウハウの結晶ともいえる製品です。スタジアム、体育館をはじめとしたスポーツ施設。駅などの交通施設、商業施設、公共建築、研究施設。そして耐震改修やリノベーション。私たちはこれまで培ってきた力を最新のテクノロジーによってさらに進化させ、あらゆる建築ニーズにお応えしていきます。