太陽工業コラム
地域の中核拠点、これからの街づくりの中心として、駅はこれまで以上に大きな期待を集めています。地域交通の拠点であることはもちろん、災害時の防災拠点、地域コミュニティの中核として人々が集いやすい環境の整備など、駅を中心に街のネットワーク機能を見直すことで、高齢化、中心市街地の空洞化など地域が抱える問題を解決し、持続可能な街づくりを考えていくことが重要だとされているからです。
街と駅の新しい関係
駅は交通要衝だけではなく、街と人、人と地域をつなぐハブでもあり、さまざまな機能を担います。駅が街にとってどういう存在であるべきか。今、求められる機能とは何か。駅という存在の意味が多様化しているのと同様、膜構造やTMトラスといった私たちの製品・技術も単にその機能のみに意味があるわけではありません。むしろ私たちが強く意識するのは、それによってつくり出される空間の価値です。たとえば膜屋根の設置は、雨風をしのぐだけが目的ではなく、は利用者の利便性・快適性を高め、駅、そして街に賑わいを生み出すことです。そんな駅機能を高度化・最大化していくことこそが私たちのミッションでもあるのです。
地域のアイコン、街のランドマーク | 膜が可能にするシンボリックな駅空間デザイン
駅は交通の要衝であると同時にその街の顔。美しい駅は街のランドマークとして地域に住む、そこに通う人々の誇りや喜びにもつながります。 膜構造は軽くて柔らかい素材の特徴を活かし、曲線、アーチ、それらの複雑な組み合わせに対応し自由なフォルムを表現することができます。くわえて高い透光性を活かした自然光、人工光を使った空間演出が可能です。
膜はその存在自体に、威圧感や圧迫感がないのも大きな特徴です。東京駅八重洲口のグランルーフは全長約230m、幅最大9mの大屋根ですが、大きなむくりを持った形状に柔らかな光が射し込むことによって、雨風、日射しを防ぐ屋根機能と開放感ある空間を同時に実現しています。丸ノ内側がレンガ造りによって歴史性を示すのだとしたら、八重洲側の独創的なデザインは「東京の未来」を象徴するアイコンだと言えます。
また山手線半世紀ぶりの新駅として注目を集める高輪ゲートウェイ駅は、国際都市東京の新たな玄関口として、TMトラス構造の膜屋根に折り目をつけ、和を象徴する「折り紙」を表現し、日本ならではの「優しさ」、「もてなし」の空間を生み出しています。人工物でありながら周辺景観への威圧感がなく、さまざまな形状に対応できる膜は、地域のアイコン、街のランドマークとなる駅空間デザインの幅を大きく拡げる建築素材です。
グランルーフ
・ 施主 : 東日本旅客鉄道株式会社
・ 設計 : 日建設計・JRE設計JV
・ 元請 : 鹿島建設株式会社
高輪ゲートウェイ駅
・ 施主 : 東日本旅客鉄道株式会社
・ 設計 : 株式会社 ジェイアール東日本建築設計事務所 / 隈研吾建築都市設計事務所(デザイン監修)
・ 元請 : 大林組・鉄建建設JV
光を使ったコミュニケーション | 駅が情報発信機能を持つメディアに
膜構造の大きな特徴が透光性です。日中は自然光を柔らかく拡散し内部に明るい空間をつくり、夜間は内部照明や間接光などを受け、まるで駅自体が発光しているような不思議な演出効果をもたらします。この膜と光の親和性を積極的に利用した商業施設では、内部に組み込まれたLEDが膜を照らし、建物全体の印象を季節や歳時に合わせて変化させるなどして、施設への注目度、集客向上に成功しています。
この夜間の光演出は駅においても効果的で、視認性の向上や駅前広場全体が明るくなることでの防犯効果などが期待できます。 またコロナ禍において東京、大阪で感染状況をライトアップで示す試みがありましたが、膜と光の親和性を活用することで、たとえば行政情報、地域案内、防災情報などを膜に表示させ、駅自体がメディアとして情報発信機能を持つ存在となることも可能です。住民、利用者との積極的なコミュニケーションをはかることで、駅の存在意義がさらに高まることはもちろん、特に災害時の情報提供機能は地域の安全・安心に大きく貢献することになります。
駅既存施設への機能付加が容易 | 小さな変化で大きな価値を生む
駅の新設・大規模改修といった事例だけでなく、太陽工業は既存施設への機能付加といった小規模改修においても多くの実績とノウハウを持っています。
特に限られたスペースでの屋根空間の新設に優位なのが、TMトラス構造と膜の組み合わせです。TMトラスはスタジアム屋根などに用いられている技術で、荷重を片側でバランスよく支え、大きくせり出した無柱空間をつくり出せます。もともと構造がシンプルで軽量なのが特徴ですが、これに膜を組み合わせることで全体重量をさらに軽減できるため、さまざまな場所での施工、設置が可能となります。たとえば駅出口に人が滞留し通行の妨げになるため、庇スペースを設け雨天時の滞留場所を拡張したいという場合には、既存施設にほぼ影響を与えることなく、敷地面積を最大限に有効活用した空間をつくり出せますし、駅と周辺商業施設を結ぶペデストリアンデッキに屋根をつけるといった場合なども同様です。
くわえてTMトラスは工場生産部品をベースにシステム化されたユニット工法のため、工事にともなう大型重機が不要となります。狭小地への搬入も容易ですし、工事にともなう既存施設への影響、駅利用者の動線変更も最小限に抑えられます。屋根を設けることで駅から商業施設への流れが増えた。荒天時の出入り口の混雑がなくなり人の流れがスムーズになったという事例があるように、わずかな機能の付加によって利用者の利便性は大きく変わり、人の流れが変わることも少なくありません。小さな変化で大きな価値を生む。太陽工業ができる駅への貢献の一つです。
TMトラス製品について>>TMトラスについて
交流・防災・景観・ハブ | 駅前広場が地域のインフラに
駅と地域のつながりを考える上で、駅とともに重要な役割を担うのが駅前広場の整備です。鉄道、バス、タクシー、乗用車、自転車といった他の交通手段への乗り換え、駅から市街地へ向かう、逆に市街地から駅に訪れる交通結節点としての機能のほか、地域のインフラとして「市街地拠点機能」「交流機能」「景観機能」「サービス機能」「防災機能」といった都市の広場としての機能が期待されているからです。具体的には上下移動や段差が少ない歩行者移動。車と歩行者、公共交通と乗用車を分けた動線、案内誘導のわかりやすさなどが求められます。
こうした観点から近年、多く用いられているのが円形や楕円形の交通島を中心にバスやタクシーベイを配置する形です。膜構造はこうした曲線的な平面レイアウトにも強みを発揮します。たとえばブーメラン構造などさまざまなデザインバリエーションを持つシステムシェルターは、あらゆる曲線レイアウトに対応しシームレスな長屋根を実現します。膜の軽量性を活かし片側一本の柱からせり出す形が可能なため、歩行者動線の連続性が確保できるほか、道路側にせり出させることで雨天時の乗降利便性を高めることも可能です。また柱の数が少ないことは視認性の向上にもなり、高齢者等への案内誘導機能を高めることにもつながります。
駅前広場にこうしたシェルターを連続的に設置することは、雨や日射しを避けるだけでなく、その存在が乗り換え動線を直感的に示す案内機能も果たします。さらに街路照明と膜照明を組み合わせることで広場を明るく照らし、駅周辺の防犯・安全性の向上も期待できます。 このほか休憩場所や地域交流のイベント広場など、膜屋根のあるスペースを設けることで人々の滞留・賑わいを生みだし、都市広場としての機能をさらに高めることも可能です。JR・近鉄線天理駅では膜構造遊具施設「ふわふわドーム」などを設けた遊び場を駅前広場に整備。子どもから大人、高齢者までが集う交流拠点を設け、そこから生まれる賑わいを市街地に広げて行く取り組みも行われています。
システムシェルターについて>>システムシェルター
まとめ | 駅前から生まれるつながりと賑わい
駅、そして駅前広場を活性化し、より積極的に地域とのつながり、賑わいを生み出す。まさに今、駅に求められるのは交通機能だけではなく、地域の顔、都市のインフラとしての機能です。その期待は駅の持つポテンシャルが、現在果たしているもの以上に大きいことの証でもあります。駅は街にとってまだまだ大きな可能性が残されている。私たちは膜建築を通して、その可能性の高度化・最大化に貢献していきます。
前記の企画品だけでなく、独自デザインへの対応など、太陽工業ではお客様からのあらゆるニーズに応えてまいります。シェルターの持つ優れた機能性とデザイン性で駅前、公園、広場、施設の快適性、美しさを高め、住みやすい街づくりに貢献してまいります。