太陽工業コラム
近年の異常気象により、水害はかつてない形・規模・頻度で発生しています。 特に河川の堤防決壊による地域への被害は甚大であり、国土強靭化へ向けても従来工法に代わる新しいソリューションが求められています。
越水による堤防の決壊は、侵食によって裏法面が崩壊することで発生します。 この記事では、新しいソリューション『透気防水シート』をご紹介します。
透気防水シートは、従来のシート材では防止できなかった裏法面の崩壊を防ぎます。 大きく3つの機能を持ち、京都大学防災研究所での実堤防の1/10模型実験においてその効果が実証されています。
- 防水性
- 透気性
- 接合部の防水性
河川土木事業に携わる方は、ぜひご一読ください。
近年の気候変動と、河川堤防の安全性の確保
河川堤防は、河川管理施設等構造令にて「堤防は、盛土により築造するものとする」と「土堤原則」が規定されています。
盛土による河川堤防は、材料が容易に取得でき工事費用が比較的安く、構造物として劣化が起きにくく、また修復や嵩上げ、拡幅が容易という特徴があります。
しかし土堤は、洪水時に長時間の水圧が作用するなど堤体への浸透による強度低下や流水による洗掘、越流による侵食などに弱い面も有しています。
近年では著しい気候変動により、これまでは想定されなかったような『ゲリラ豪雨』といった局地的な大雨や、『線状降水帯』など数日に渡る豪雨による越水が発生しており、従来の対策では十分な侵食防止効果を確保できなくなってきました。
計画高水位を超える洪水や超過洪水がかつてない頻度で発生し、河川堤防を越水する危険性は年々増大しています。
河川堤防の安全性を確保するために、新しい対策が求められるようになりました。
堤防決壊の原因:侵食による裏法面の崩壊
一般的には堤防決壊(破堤)の原因は大きく、越水、浸透、侵食・洗掘に分けられます。また、これらが複合的な要因となって堤防が決壊することもあります。
直轄河川における堤防決壊の原因について昭和22(1947)年~44(1969)年までの事例分析を見ると、その80%以上が越水によるものであるとされています。
また、1945年以降の直轄及び県管理河川堤防の破堤事例(全678事例)の調査結果では、越水が原因となるものが50%を占めるなど、破堤原因としては越水に起因するものが多いと判断されます。
「令和元年台風19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会」でも台風19号による堤防決壊原因について同様の報告がされています。
近年、甚大な被害をもたらしている堤防の決壊は侵食による裏法面の崩壊が原因です。これまで経験したことのない未曾有の超過洪水に対して、河川堤防を越水した場合であっても、決壊しにくく、堤防が決壊するまでの時間を少しでも長くするなどの防災効果を発揮する粘り強い構造の河川堤防(越水した場合であっても「粘り強い河川堤防」)の整備に必要な堤防設計のためには、裏法面の越流侵食対策が要であるということを認識する必要があります。
ところが、従来のシート材を用いた対策には課題があります。
裏法面保護における従来のシート材の課題
河川堤防の法面保護における工法としては、これまで 『遮水シート』や『吸い出し防止シート』を用いるものが一般的でした。しかしこれらには以下のような課題があり、近年の異常気象による超過洪水に対応するには機能性が不十分であることが分かっています。
遮水シートの課題
遮水シートは堤体内への浸水を防ぐことはできますが、空気が排出できないため、堤体内の水位が上昇した際に間隙空気圧が高まる可能性があり、堤体の局所破壊(エアーブロー現象)への対応が不十分です。 また、接合部からの浸水に弱く、越流時に接合部がめくれ堤体が侵食される起点になります。
吸出し防止シートの課題
吸い出し防止シートは堤体の土砂の流出を防ぎますが、遮水性がないため雨や越流水の浸透は防止できません。越流の発生時には、裏のり面を侵食する可能性があります。
対策には、従来の遮水シートや吸い出し防止シートに代わるシートが必要です。
従来のシート材に代わる新技術:透気防水シート『ブリーザブルシート』
- 防水性
- 透気性
- 接合部の防水性
従来のシート材の課題を解決し、河川堤防の裏法面保護に必要な上記のすべての機能を備えた唯一のシートが『ブリーザブルシート』(透気防水シート)です。
『ブリーザブルシート』は、透気防水性シートを長繊維不織布製の保護マットで挟み込んだ三層一体型のシートであり、堤体内への雨水や河川水の浸透を抑制すると同時に堤体内外の間隙空気の透過を可能にします。
以下のような優れた性能を持ち、新技術としてNETISにも登録されています。
効果
従来の遮水シートは間隙空気を透過しないため、豪雨などで河川水位が上がって浸潤線が上昇した際に、堤体内の間隙空気圧の上昇を抑制することができませんでした。
高水位時や堤防越流時になると、遮水シートに揚圧力が作用して、シートが剥がれる際に堤体に損傷を与える可能性がありました。
『ブリーザブルシート』を下図のように裏法面に使用することで、裏法面全体からの透気性能により間隙空気が排出されます。堤体とブリーザブルシートとの密着性が確保できると同時に、シート下部の堤体を保護することができます。裏法面からの降雨浸透を抑制し、越流時の侵食防止に効果があります。
これにより越流しても決壊しない堤防を構築でき、地域で万一の水害が発生した場合にもその被害を最小限に抑えられます。
適用範囲
『ブリーザブルシート』は、裏法面の保護を含め主に以下の4つシーンで適用されます。
- ①降雨による地表面からの堤体内への雨水浸透抑制
- ②堤体内への河川水浸透抑制
- ③間隙空気圧の上昇防止
- ④超過洪水時(堤防越水時)の裏のり面の侵食防止
①降雨による地表面からの堤体内への雨水浸透抑制
②堤体内への河川水浸透抑制
③間隙空気圧の上昇防止
④超過洪水時(堤防越水時)の裏のり面の侵食防止
物性値
『ブリーザブルシート』は高い遮水・透気効果を持つだけでなく、軽量で耐久性にも優れます。主な物性は以下の表のとおりです。
項目 | 単位 | 規格値 | 試験方法 | |
---|---|---|---|---|
厚さ | 2kPa | mm | 5.0 | JIS L 1908 |
20kPa | mm | 3.2 | ||
質量 | g/m2 | 600以上 | ||
引張強さ | N/5cm | 800以上 | ||
伸び率 | % | 60以上 | ||
貫入抵抗 | N | 500以上 | ASTM D 4833 | |
透気係数 | cm/s | 1×10-2以上 | Φ100mm透気試験装置、湿潤状態 | |
透気係数※1) | cm/s | 1×10-6以下 | JGS 0931に準拠 | |
接合部 | 接合部引張強さ | N/5cm | 450以上 | JIS K 6850、25mmまたは50mm幅短冊型試験片 |
接合部漏水量 | m3/(m.n) | 1×10-2以下 | Φ300mm透水試験装置、50cm水頭時 (国土交通省土木工事共通仕様書(案)、平成29年4月改訂、法覆沿護岸工遮水シートの品質規格値 25ml/s/1.8m2の1/10に相当) |
(『ブリーザブルシート』の標準物性)
京都大学での実験:裏法面における防水・透気効果の実証
『ブリーザブルシート』は、京都大学防災研究所での実堤防の1/10模型実験においてその効果が実証されています。
裏法面に『ブリーザブルシート』を敷設した状態、敷設しない状態の2つの小型堤防模型を築堤し越水実験を行ったところ、侵食状況に明らかな差が認められました。
『ブリーザブルシート』の裏法面保護における高い効果が実証される結果となりました。
詳しい実験の様子は、以下のレポートからご確認いただけます。
>>『ジオシンセティックス論文集』
まとめ
近年の気候変動によって発生する豪雨などから河川堤防を保護するには、従来のシート材を用いた被覆工法では不十分であり、新たなソリューションが求められています。
裏法面の保護に必要な機能である『防水性』・『透気性』・『接合部の防水性』をすべて備えている唯一の製品が、『ブリーザブルシート』です。
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