太陽工業コラム

機能プラスαの価値ある空間|膜構造と駅の良い関係

通路や壁、梁に木材が使われ、柔らかな光が降り注ぐ。半世紀ぶりの山手線新駅となった高輪ゲートウェイ駅※は、都心にありながらどこかゆったりとした時の流れを感じさせる駅です。
約4000㎡のトラス構造屋根に使われているのは光触媒膜。建築家の隈研吾氏はこの膜を和紙に見立て、外側にはいくつもの折り目をつくり「折り紙」を、天板から透けた光が見える内側は「障子」をイメージしたそうです。
ともすれば無機質になりがちな鉄道駅に膜構造を用いることで、日本ならではの「優しさ」、「もてなし」を表現する。膜構造はその機能性だけにとどまらず、プラスαの価値を駅という空間に生み出します。

※高輪ゲートウェイ駅
・ 施主 : 東日本旅客鉄道株式会社
・ 設計 : 株式会社 ジェイアール東日本建築設計事務所
隈研吾建築都市設計事務所(デザイン監修)
・ 元請 : 大林組・鉄建建設JV

明るい駅がもたらすもの

拡散された柔らかな光を包み込むように駅全体に取り入れる。圧倒的な開放感があり、明るく快適な空間を実現できる建築素材として、駅の新設・改築などにおいて膜構造への注目が高まっています。一方、膜素材に対しては耐久性やメンテナンス、暑さを心配する声をいただくこともあります。これからの駅、そして駅を中心とした街づくりに膜構造がどんな役割を担えるのか。「膜と駅との高い親和性」を見ていくことで、そんなご心配の声にお答えします。

<駅デザインの可能性を拓く> 光を活かし、程よくコントロール 膜構造が可能にする空間演出

膜構造建築の大きな特徴の一つに透光性能の高さがあります。膜屋根の最大照度は16,000lxで金属、スレート等の素材に比べ、圧倒的な明るさを実現します。日中は自然光を活用しプラットフォーム、コンコースを明るく照らし、照明・空調コストの削減に貢献。明るい室内空間は乗り換えや出口動線の分かりやすさにもつながり、高齢者をはじめ、お客様の利便性を大きく向上させます。

一方、夜間は逆に室内照明が膜を通過。駅全体が柔らかな光を発する物体のようなシンボリックな姿を浮かべ、昼間とはまったく違った印象を醸し出すのも膜構造の特徴です。 形+光によって豊かな自然光を空間に取り入れ快適な空間を創り出し、夜間は照明効果で街を彩る存在となる。光を最大限に活かし、程よくコントロールできる膜構造だからできる空間演出は、駅空間デザインの可能性を大きく拡げます。

<ホームの熱中症対策にも有効> 光を通し、熱を反射する 温度上昇を抑えた快適空間を実現

その透光性能の高さから膜構造には日中の温度上昇を懸念する声をいただくこともあります。しかし太陽工業の光触媒膜材の日射反射率は約80%。光は通しても熱は通さない素材です。高い日射反射性能によって屋根裏の温度は金属屋根に比べて※9℃も低くなり、この熱吸収率の低さによって屋根元の床面温度(プラットフォーム)は金属屋根に比べて1.5℃、平均放射温度も3℃ほど低くなることが確認されています。(※メーカー計測値による)

これらは照明や空調コスト寄与するのはもちろん、近年大きな問題となっている夏場の熱中症対策にも大きな効果を発揮します。

<災害に強い駅へ> 軽量で高い耐震性能 二次被害も最小限に抑える

地震大国日本において、建物の耐震性能は安心・安全の重要な要素です。特に多くの人が日々行き交う駅においては、万一の災害に備えて万全の体制が求められます。

地震の振動エネルギーは建物の重量に比例して大きくなります。膜構造は通常の建築素材に比べてはるかに軽量なため、揺れに対する負荷が少なく、特徴である柔軟性は揺れによる変形に追従するため柱への負荷も大きく軽減します。これによって地震による屋根落下などの危険性を減少でき、万一、破断した場合もガラス・金属等に比べ飛散しにくい素材のため、高い安全性を確保できます。また災害時の避難経路も確実に確保でき、利用者の安全な避難誘導が可能となるため二次被害の危険性も大幅に軽減できます。

<改修・メンテナンスを軽減> 工学的耐用年数は50年 セルフクリーニング機能で汚れも除去

膜材の耐久年数はその種類によって異なりますが、いずれも15〜30年と非常に長いのが特徴です。米国では30年以上の実績を持つ建物もあり、国内でも東京ドームに使用されている膜材は1988年の開場以来、一度も張り替えることなく使用されています。工学的データでは膜材は50年の実用耐用年数が期待できると言われ、この耐久性の高さは改修工事の頻度を下げ、工事に伴う利用者への負担を大きく軽減します。

また酸化チタン光触媒膜はそのセルフクリーニング機能によって表面に付着した汚れを化学的に分解除去します。屋根開放部だけでなく裏面も光酸化分解機能が働くため、清掃等のメンテナンスコストを大幅に削減することが可能です。光触媒の粒子は膜材と一体化しており、経年劣化することがないため効果は半永久的に持続します。

 

自浄作用のあるメンテナンス費用を抑えられる光触媒膜材

<環境に優しい駅> 酸化チタン光触媒膜がNOxを吸着・分解 駅の存在が環境改善に貢献

大気汚染の原因物質の一つに窒素酸化物(NOx)があります。主に自動車の排気ガスなどに含まれる高濃度の二酸化窒素(NO2)は人の呼吸器に悪影響を与えることから、いかに二酸化窒素を削減するかは大きな課題となっています。

二酸化窒素の削減対策には植物が持つ吸収・吸着力を利用したビル壁面や屋上緑化、街路樹整備などが一般的ですが、それにかかるコストおよび必要な面積などを考えると都市部では必ずしも十分にまかないきれないのが現状です。 そんな中、環境対策に貢献する建築素材として注目を集めているのが酸化チタン光触媒膜です。

酸化チタン光触媒膜には排ガス中に含まれる窒素酸化物を吸着し分解・除去する機能があり、その仕組みは空気中の窒素酸化物が膜面に付着すると光触媒が発生する活性酸素の力で二酸化炭素、さらに無害な硫酸イオン(NO3-)へと酸化。硫酸イオンは水溶性なので空気中の水分と反応し硝酸(HNO3)に変わり、雨によって洗い流されるというものです。生成されたHNO3はごく微量なため土壌への影響もありません。

つまり酸化チタン光触媒膜を駅屋根、庇、駅前広場などに利用することで緑化と同じ効果が得られることになります。省電力などによって『環境配慮』などと謳うことがありますが、酸化チタン光触媒膜はその分解除去機能によって、まさに『環境を改善する駅』を実現します。

まとめ

軽量性、透光性、遮熱性、耐震性、自浄機能、環境性能。高い安心・安全性はもちろん、多くの人が満足する利便性、快適性が求められる公共空間である駅という場に、膜構造は高い親和性を持っています。

こうした建築素材としての膜構造の価値を高めてきたのは、建築家、施主の皆様などからの「こういうことができないか」、「これを実現したい」といった膜構造に対する要望に応えるために共に考え、工夫、改善、改良を繰り返してきた、多くの経験知によってもたらされたものです。

これからの駅に膜構造は何ができるのか。求められることにいかにして応えられるか。皆様の声、ご要望、その一歩先を歩めるよう、私たちはこれからも膜構造の可能性を追い求めていきます。

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