太陽工業コラム
台風や豪雨の季節になると、山岳部などで土砂災害が発生します。
この復旧には、コンクリートやモルタルを打設する法面保護工などが必要になりますが、現場の条件や状態によっては、従来の木工法を用いた工事が困難なケースがあります。
そんな場面で活躍するのが、布製型枠『タコム』です。
場所を選ばずどこへでも簡単に持ち運びでき、敷設が可能で、特殊機械や技能、型枠工なども不要のこの工法は、既に各地の法面工事で採用されています。仮復旧ではなく本復旧が可能な工法として、多くの優れた実績を残しています。
この記事では、布製型枠『タコム』の概要を紹介し、メリット・施工手順と合わせて現場事例を多数ご紹介します。
台風や豪雨の季節に向けて、とくに自治体の土木担当の方などに参考になる内容です。
布製型枠『タコム』とは
布製型枠『タコム』は、生コンクリートやモルタルを注入することで一定の厚みのコンクリート面を簡単にすばやく形成できる、合成繊維製の袋状のマットです。
マットは軽量・コンパクト・フレキシブルで、場所を選ばず半日~1日程度で敷設できます。特殊機械や技能・準備が不要なので、従来の木製型枠に比べて大幅に工期が短縮できるのが最大の特徴です。
マットの形状は、「スタンダード(ノンフィルター)型」、「フィルター型」の2タイプがあります。それぞれに次のような異なる特徴を持ち、現場の条件や用途に応じて最適なタイプを選ぶことができます。
スタンダード(ノンフィルター)型
最も汎用的なタイプであり、一定の厚さの全面コンクリート盤(モルタル盤)を形成することができます。
フィルター型
シート底部に隙間のあるフィルター型は、湧水のある法面、水位差の生じる調整池になどに適しており、法面からの湧水をスムーズに排水することができます。
寸法は現場に合わせて工場加工される他、厚みは5cm~50cmと豊富な規格が用意されているため、用途や現場に合わせて柔軟に対応できます。
主要用途別使用タイプ
水中施工も可能であり、河川の法面保護工や三面水路工、護岸保護工、土嚢積みの被覆工などに最適な工法です。以下のリンクから、詳しい動画を観ることができます。
タイプ | スタンダード型 | フィルター型 | |||||||
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用途 | 50H | 100H | 150H | 200H | 300H | 500H | TF65C | TF100C | TF150C |
平均厚み 空げき形状(cm) | 5 | 10 | 15 | 20 | 30 | 50 | 6.5 | 10 | 15 |
注入材料 | モルタル | モルタル | モルタル | コンクリート | コンクリート | コンクリート | モルタル | モルタル | モルタル |
注入量(mm3) | 6.0 | 12.0 | 18.0 | 22.9 | 33.4 | 55.7 | 7.8 | 12.0 | 18.0 |
水セメント(W/C) | セメント単位量 C (kg/m3) | スランプ又はフロー値 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
モルタル(1:2) | 60~65% | 600以上 | フロー値18±3秒 | フロー値はPロードによる |
コンクリート | 55~65% | 370以上 | スランプ22±3cm | スタンダード型(200H)骨材最大径15mm1以下 スタンダード型(300H、500H )骨材最大径25mm以下 σ28=21N/mm3以上、細骨材率50~60% |
(1)上記配合は、骨材別途の標準です。特に水中施工の場合は、材料の分離に対して注意が必要です。
(2)施工前に必ず試験練りを行ってください。
(3)コンクリートの配合には混合材料の使用を推奨します。
(4)脱水量はモルタル15%、コンクリート(20~25㎜)7%程度です。
この記事の後半で紹介するように、既に多くの現場で採用された実績があります。
関連情報:法面保護に関する資料をダウンロード
布製型枠『タコム』の特徴とメリット
<三面水路工の例>
布製型枠『タコム』は、とくに山岳水路など狭い現場における三面水路工で真価を発揮します。
その特徴やメリットは、以下のとおりです。
- 柔軟で短工期を実現する施工性 (日施工量:約300~500m2)
- 場所を選ばない多様性 (配管で施工可能)
- 高い耐久性
- 経済性 (50H(5cm厚)約6000円/m2前後)
- 重機が不要で人力で運搬可能
柔軟で短工期を実現する施工性
現場でマットを敷設してその周囲を固定するだけで、コンクリート(モルタル)の注入が可能です。マットの敷設は、広範囲であっても半日~1日程度で完了し、少人数・短時間での施工を実現します。
大型重機は不要で、水中や海中でも施工が可能です。
場所を選ばない多様性
マットは軽量・コンパクト・フレキシブルであり、木製型枠や張りブロックなどの従来の工法に比べて、施工場所を選びません。
形状は現場に合わせて工場加工されるため、様々な地盤の凹凸によく馴染み、多様な形状でも施工可能です。また、適用できる法勾配は最大1:10程度です。
高い耐久性
従来のコンクリートブロック張などと比べてマットの面が大きいため、波や水流などに対して高い耐久性があります。
布製型枠『タコム』の施工手順
布製型枠『タコム』の施工手順は、きわめてシンプルです。
特殊機械や技能、熟練の型枠工などは不要で、現場でマットの敷設工(固定工)・注入工・洗浄工を行うだけでコンクリート面を形成することができます。
施工手順は、以下のとおりです。
- 準備
- マットの敷設工・固定工
- 注入工
- 洗浄工
1.準備
- 計画(設計)に基づいて切土、盛土を行い、機械整形します。
- 人力での仕上げとして地盤の凹凸を均し、木や根を除去します。
- 法尻が水中にあり、かつ水深50cm以上の場合は、流速を0.2m/s以内に制御します。
2.マットの敷設工・固定工
- 施工範囲を確認して、法面にマットを敷設します。
- 足場の良い所を選び、法面上部に単管パイプを通します。
- マットの縮みを考慮して延長方向は所定寸法に組み立て、支持用のチェーンブロックで固定します。
3.注入工
- マットの注入口にホースを挿入し、コンクリート・モルタルを注入します。
- 常に注入ホースの端がコンクリ内部に位置するように注意しながら施工し、低い位置から注入していきます。
4.洗浄工
- 注入口処理として、突起した注入口を美観のためにならして処理します。
- 注入時にこぼれたコンクリートやモルタルなどの水洗いします。
- 使用した副資材の撤去して、施工は完了です。
関連情報:法面保護に関する資料をダウンロード
布製型枠『タコム』の施工事例
布製型枠『タコム』は、山岳水路の災害復旧工事などにおける本復旧の手段として、多くの自治体で採用されています。
とくに三面水路工において優れた効果を発揮するタコムの施工事例を5つ紹介します。
- 【三面水路工】龍神スカイライン線復旧治山事業
- 【三面水路工】林道谷口皆瀬川線災害復旧工事
- 【三面水路工】林道災害復旧事業(林道ホイホイ坂線)
- 【流路工】林道武住谷線県土防災対策治山事業
- 【法面保護工】グリーンピア調整池復旧工事
【三面水路工】道路復旧 治山事業
施工場所 | 和歌山県新宮市熊野川町 |
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品番 | タコム スタンダード型100H / スタンダード型150H |
数量 | 147m2 / 13m2 |
道路沿いの法面が台風により崩壊し、二次災害防止のために早期の復旧が不可欠であったことから、木製型枠が不要かつ即効性のあるタコムが採用されました。
【三面水路工】林道 災害復旧工事
施工場所 | 和歌山県田辺市 |
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品番 | タコム スタンダード型200H |
数量 | 177m2 |
林道谷口皆瀬川線近傍の林道水路として、コルゲート管よりも耐久性と安定性に優れていることが評価され、タコムが採用されました。
【三面水路工】林道災害復旧事業
施工場所 | 和歌山県新宮市熊野川町 |
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品番 | タコム スタンダード型300H |
数量 | 550m2 |
既設水路から溢水し、この溢水個所から下流水路の背面側が侵食されて崩壊しました。
再び溢水しても崩壊しないよう、背面部も含めた対策として、長期にわたる耐久性が評価され、タコムが採用されました。
【流路工】林道 県土防災対策 治山事業
施工場所 | 和歌山県田辺市 |
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品番 | タコム スタンダード型150H |
数量 | 250m2 |
豪雨により崩壊した流路工において、地形に合わせて施工ができ、かつ型枠工が不要で即効性のあるタコムが採用されました。
【法面保護工】調整池復旧工事
施工場所 | 岐阜県恵那市 |
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品番 | タコム スタンダード型200H |
数量 | 480m2 |
調整池背後の法面がブロック積みで保護されていましたが、豪雨が発生し、法面排水路部から侵入した雨水で崩壊しました。この法面の本復旧に、型枠工が不要でかつ即効性のあるタコムが採用されました。
まとめ
台風や豪雨による土砂災害の本復旧の方法として、布製型枠『タコム』による工法を紹介しました。
- 現場が狭くて大型重機が乗り入れできない
- 木製型枠を組み立てる熟練工の手配が難しい
- 復旧を急ぐため、短工期を実現したい
このような課題を持つ河川の法面保護工・三面水路工・護岸保護工・土嚢積みの被覆工などのソリューションとして、ぜひ布製型枠をご検討ください。
布製型枠『タコム』に関するさらに詳しい情報、お問い合わせなどは、以下のリンクをご参照ください。